「寒地稲作の祖」と称される中山久蔵翁。
その末裔の方から、一本のサクラの救援要請が当会に寄せられました。
舞台は、国の史跡に指定された「旧島松駅逓所」(北広島市)。樹齢は100年をはるかに超えるとされる、由緒ある桜の木です。
弱り果てた古木に、いま私たちは「不定根(ふていこん)誘導」という手法で立ち向かっています。
今回はその取り組みと、希望を抱かせてくれる一つの成功例を紹介しますしょう。
島松駅逓「Boys, be ambitious」の地に立つサクラ

北広島市にある旧島松駅逓所は、明治6年に開通した札幌本道(現在の国道36号)沿いに置かれた、北海道独自の宿泊・運送施設「駅逓所」のひとつです。
寒地稲作の祖と称される中山久蔵翁の住まいでもあり、翁はこの地で寒さに強い稲「赤毛」の栽培に成功し、北海道の米づくりの礎を築きました。
また、札幌農学校(北海道大学の前身)の初代教頭クラーク博士が、帰国の途につく際に見送りの学生たちへ「青年よ、大志を抱け(Boys, be ambitious)」の言葉を残した地としても知られています。
そんな歴史の地に長く根を張ってきた、古木のサクラ。
けれども長い年月のなかで本体の幹は朽ち果ててしまいました。それでも、その根元から芽吹いた“ひこばえ”とも言うべき一本の枝が、けなげに生き続けていたのです。

朽ちた古木(左下)から生き残った一本の枝が、支柱に導かれて上へと伸びる。
これが島松駅逓所のサクラのいまの姿です。

生き残った枝(上)と、すっかり朽ち果てた古木の幹(下)。
ロープと支柱で、ようやく立っている状態でした。

別の角度から。古木の幹は内部まで大きく傷み、見るからに痛々しい姿です。
このままでは枯れてしまう――。
地元の皆さんの危機感と「なんとかこのサクラを残したい」という熱意がひしひしと伝わってきました。
桜の木に施した緊急ケア「不定根誘導」

NPO法人桜を守り育てる会では、じゃあ、何ができるのか。
弱った古木を救うために当会が試みているのが「不定根誘導」という手法です。
木の根元に危機が生じると、幹や枝といった本来は根ではない部分から新しい根「不定根」が出てきます。
これは、なんとか土の面に到達して水分や養分を確保しようとする動き。
この木が本来もっている力を引き出し、生き残った部分が自力で根を張れるよう手助けするのが「不定根誘導」です。
具体的には、ピートモスや水苔(みずごけ)といった保水性の高い素材を幹の根元に厚く盛り、湿った環境を保ちます。
こうしておくと、幹の表面から不定根が伸び出し、やがて地面へと下りていきます。

細い枝の根元に盛り上げたピートモス。
湿り気を保ちながら、ここから新しい根が下りてくるのをじっくりと待ちます。
黒く盛り上がっているのが、その“根の苗床”です。
この中で、サクラが新たな根を伸ばしてくれるのを、辛抱強く見守ります。
ピートモスとは、園芸用土の一種。
水苔などの植物が長い年月をかけて湿地に堆積・分解してできた泥炭を乾燥・粉砕したものです。
保水性と通気性にすぐれ、発根を促す環境づくりに使われます。
不定根誘導に効果はあるの? ―― 由仁町・熊本神社での成功例

「そんなことで本当に木が助かるの?」と思われるかもしれません。
実はこの不定根誘導には、確かな成功例があります。由仁町の熊本神社のサクラです。

このサクラも、かつては「もうダメだろう」と伐採されかけていました。
そこで思い切って、幹を地上1メートルほどですべて切り落とし、細い枝をわずか2本だけ残したのです。
そして根元に不定根誘導をほどこしたところ――。

古い幹に沿って伸び、地面をしっかりつかんだ太い不定根(中央の明るい部分)。

幹の内部が空洞になっていく一方で、根元では不定根が太く育ち、木を支えはじめています。
横向きに見えるものも、立派な不定根です。

幹の表面から太い不定根が次々と伸び、地面をがっちりとつかみました。
これらの根が新しい根系となって木全体を支え、上部の幹を育てているのです。
そして現在――。

あの伐採寸前だったサクラは、不定根に支えられて4本の幹をのびのびと伸ばし、春には再びつぼみをふくらませるまでに回復しました。
「もうダメ」と思われた木が、ここまでよみがえったのです。
全力をあげて、桜を助け育てたい
島松駅逓所のサクラもまた、枯れかけた史跡の古木から芽吹き、奇跡的に生き延びている一本です。
熊本神社での成功が示すとおり、不定根誘導には大きな可能性があります。
中山久蔵翁の末裔の方々、そして地元の皆さんの「このサクラを残したい」という熱い思いに応えるべく、当会は全力をあげてこのサクラを助け、育ててまいります。
来春、そしてその先――この古木がふたたび花を咲かせる日を信じて。
その後の経過は、本サイトで随時お伝えしたいところ。どうぞ、あたたかく見守っていただけましたら幸いです。


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